ピリッと辛い黄色い色が特徴の薬味です【からし】

「からし」と言えば、黄色い色をしたペースト状のおでんなどによくつけて食べる薬味というイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか?
一口にからしと言っても「和からし」と「洋からし」があって、日本で昔から食べられてきた薬味と言えば、和がらしですよね。
洋がらしの場合はマスタードと言った方が分かりやすいかもしれません。この2つは見た目はよく似ていますが、実はまったく別のものなのです。
薬味として「からし」を使う時には、練がらしを使うと手軽ですが、粉がらしを練り上げて使うと、ピリッとした辛味が出て料理の味をより引き立ててくれます。

からし(辛子)ってどんなもの?

日本で昔から食べられてきた「からし(辛子)」と言えば、和からし(和がらし)のことです。
この和からしは、アブラナ科の植物のカラシナ(からし菜)の種子(からし種子/マスタードシード)を原料として作られるものです。
からし菜の種の油を絞った後に細かく砕いて撹拌し、乾燥させたものが「粉からし(からし粉)」です。
この粉からしに水を加えて練ったものが「練りからし」です。現在一般的に使用されているのはこの練りからしをチューブに入れたものです。からしは、水分を加えて練ると、酵素の働きで辛み成分が生成されて、辛くなるのです。しかし、からしの辛味成分は揮発しやすいものなので、練りがらしにしてしまうとせっかくの辛味成分が抜けやすくなってしまいます。そこで、市販のチューブ入り練りがらしには、食塩や食酢、植物油などで辛味成分を逃がさないようにする工夫がなされています。
ピリッと辛いからしを食べたいのなら、粉がらしを用意して、食べる前に水で練って使うというのがおすすめです。

《マスタード(洋辛子)》
洋辛子は、和辛子と混同されやすいですが、一応別物です。
違いは2点あり、ひとつは使われるからし種子が別の品種のものであるということ、もうひとつは製造工程での違いです。和辛子に使われるのはカラシナ(セイヨウカラシナ)の種子ですが、洋辛子に使われるのはクロガラシ(ブラックマスタード)やシロガラシ(ホワイトマスタード)です。
洋辛子は、よくボイルしたソーセージやローストビーフなどに添えられていて、粒を残した状態のものもよく使われます。マスタード(洋辛子)に使われるからし種子は和辛子と比べると比較的大きめの粒のものです。また、加工してペースト状にする時に調味料を加えたりすることもあるので、和辛子と比べると辛味があまり立っていないまろやかな味わいのものが多く見られます。



からし(辛子)の旬

からしは粉状にして加工して密封して保存しておけば日持ちのする食品なので、特に旬という意識はないように思います。からしの原料であるからし種子の一大産地であるカナダでは、6月に種を巻き、8月に開花し、9月に種子の収穫を迎えるそうです。植えてから約90〜100日で収穫を迎えるというサイクルだそうなので、カナダで9月の収穫されたからし種子が加工されて製品となる秋から冬にかけてがからしの旬と言えなくもないでしょうか。 ちなみに、からしの種子ではなく、野菜として食べられているカラシナ(からし菜)の旬は、日本では地物が大体3〜4月頃です。



からし(辛子)の産地

日本では奈良時代から香辛料として使われていたというからしは、中近東原産で日本には中国経由で伝えられたと見られています。
そのように歴史もある香辛料のからしですが、今では日本国内で使われているからしの原料のほとんどはカナダからの輸入に頼っています。カナダは、世界のからしの消費量の半分を占めるというからし種子の輸出大国なのです。カナダ以外には、アメリカ、インド、フランス、ドイツ、中国などで栽培されています。世界的に比較的温暖な気候の土地であればどこででも栽培は可能ですが、日本でのからしの栽培は採算面で競争には勝てず、国内での生産量は今ではほとんどありません。そんな中、日本国内でからし種を伝統的に作り続けている福井県のような産地もあります。

《今や貴重なからしの産地・福井県の「地がらし」》
日本のからしの加工原料のほとんどがカナダからの輸入に頼っているという現状ですが、福井県では江戸時代からからし種子の生産が続けられています。国内での生産がほとんどなくなってしまった今では、国産のからし種子の存在は大変貴重で、そのため国産からしとしての商品価値も高まっています。福井で栽培されているからし種子は、日本古来のからし種を受け継いでおり、からしの製法も伝統の製法を守って作られています。福井県で作られたからしは「地がらし」と呼ばれ、大変重宝されています。

からし(辛子)のチカラ(効能)

からしには、食欲を高める効果があります。鼻にツーンとくるようなからしの辛味は、わさびなどにも含まれているアリルイソチオシアネート(アリル芥子油)という成分です。からしとわさびの鼻にツンとくるような辛味が似ているのはこの成分が含まれているからなのですね。
からし種子の粉末に水を加えると、そこに含まれているシニグリンという成分が、酵素と水分で学反応を起こしてアリルイソチオシアネート(アリル芥子油)が生成されます。この香味成分が唾液の分泌を促したり、胃を刺激したりするので、食欲が増進されるという訳です。
また、このアリルイソチオシアネートには、細菌の増殖を抑制する作用もあり、食中毒予防にも効果があります。ただし、アリルイソチオシアネートは揮発性の物質なので、練りからしにしてから時間が経つと失われてしまうので、からしは食べる直前に作るのがおすすめです。
そのほか、からしには防腐作用もあるので、醤油の防腐剤として使われることもあります。

からしは、漢方薬の分野では「芥子(がいし)」と呼ばれ、神経痛やリュウマチなどの治療に用いられます。
温かいお湯で練ったからしを布などに塗って湿布として使いますが、皮膚への刺激が強いため、皮膚の弱い人は注意が必要です。通常は15〜30分程度使用しますが、皮膚の弱い人は5〜10分程度の使用に留めなくてはいけません。

からし(辛子)の使われる代表的な料理

(和からし)からし和え、からし漬け、おでん
(洋からし)マスタード焼き、ピクルス、マリネ、サンドイッチ

からし(辛子)の加工品

ねりがらし、からしマヨネーズ、辛子蓮根

からし(辛子)を薬味にするとピッタリ!の料理

*おでん・・・和からしを練ったものを添えて。
*トンカツ・・・練りからしを添えて。
*豚の角煮・・・練りからしを添えて。
*ところてん・・・練りからしと酢醤油で。
*じゅんさい・・・練りからしと酢醤油で。
*納豆・・・練りからしと醤油で。
*焼き鳥・・・練りからしをつけて。
※北海道の室蘭で食べられている食べ方。
*ホットドッグ・・・マスタードとケチャップで。

薬味レシピ 〜からし(辛子)〜

キュウリのからし漬けと言えば、からしを使った料理の中でも定番ですね。
夏になるとキュウリが旬を迎えますし、夏バテで食欲が落ちがちな時期にはピッタリの料理です。
面倒な手間はほとんどなく、手軽に作れるので多めに作っておくのがおすすめです。
十分に漬かった後は冷蔵庫で保存して、3〜4日程度で食べきると良いでしょう。
キュウリの他に茄子などを使ってもおいしいですよ。

キュウリのからし漬けの材料
2人分
 【キュウリのからし漬けの作り方】
キュウリ・・・1本(約100g)
粉からし・・・大さじ1
塩・・・小さじ1
砂糖・・・大さじ1
  1.キュウリはよく水洗いして、水気を拭き取る。

2.粉からしと塩、砂糖を器などに入れて、満遍なく混ぜる。

3.ビニール袋などの密封できるもの(ジップロックなどでもOK)にキュウリを入れて、2の混ぜ合わせた調味料を入れて、もみ込むようにしてから空気を抜いて密封し、室温(夏場は冷暗所)で1日置いて出来上がり。

薬味豆知識 〜からし(辛子)〜

《「からし」だけど「芥子」じゃない?!》
からしを使った製品と言えば、辛子蓮根がありますね。
からしを蓮根の穴に詰めて油で揚げた熊本に江戸時代から伝わる郷土料理です。
同じように「辛子」という言葉のついた食べ物に「辛子明太子」という食品がありますが、こちらは辛子は辛子でも「唐辛子」を使ったものです。こちらは、九州でも福岡の名物で、スケトウダラの卵を唐辛子で味をつけたものです。同じ辛子という名前がついていますが、ちょっと違うのですね。
ちなみに、辛子蓮根は、熊本で考案された日本ならではの郷土食ですが、辛子明太子は元々は韓国で食べられている「明太(ミョンテ)」という食品が由来なのです。同じ九州地方で辛子という言葉を使っているのに使っている辛子は別のものという名物があるのは、なんだか面白いですね。